短編小説:『百鬼夜行(ひゃっきやこう)』

『百鬼夜行(ひゃっきやこう)』

〈注意〉
18歳未満の方は大人の方と相談の上お読みください。この物語はすべてフィクションです。

日常に潜む幽かな影。
ちょっとした恐怖と大いなる幻想。
魅惑のスリラー・ストーリーに。ようこそ。

『白い指』

白い指を見詰める。美しいそれは。ゆっくりとした動作で日常を描く。

例えばとあるバーの片隅。その白い指は、淡いブルーのカクテルグラスを傾けている。そしてときおり枝付きのレーズンを。

白い指が器用に、真っ赤なルージュを引いた華麗な口元へと運んでゆく。
白色と赤色が。一瞬だけ交わる。身震いするほどの美しさに、思わず息を呑む。次に。その白い指は、カウンターの隅に置いてあったタバコを取り出す。人差し指と中指で挟んでいるそれに、ライターで火をつける。ゆっくりと紫煙が。赤い口元からこぼれ出る。

優美な一時を悟られないように観察してゆく。白くて艶めかしい指先。ああ、明日も出会えるだろうか。

次の日。その白い指は無かった。次の日も、そしてまた次の日も。

なぜなら、もう手元にあるから。
手首から先がない。美しい白い指。

けれど。もうこの指も、出会った頃の美しさを失い始めている。枯れてゆく白い指。まあ、いい。また新しい指を見付ければいい。

例えばとあるバーの片隅。
白い指と出会うことを求めて、じっと待つ。何日も。何日も白い指と出会うために、待ち続ける。そしてその時はふいに訪れる。

ほら、見付けた。あなたの白い指。

『忍び寄る黒い影』

決まって深夜二時。男は目を覚ます。
トイレに行きたい訳でもなく、きっかりと。ただ目を覚ます。外はまだ暗く、月光だけがカーテンの隙間から部屋を照らす。ベットサイドの暗がりには。ぼんやりと白い靄(もや)がかかっている。男はじっとそれを見詰める。もう一週間以上も、そんなことが続いた。そのうち男はその靄を見詰めることが、習慣になった。

今日も二時。あれからまた一週間が経っていた。ベットサイドの足側に、その靄が集中してきていることに、男は気付く。それは日増しに形を変え。とうとう一人の人間のような形態を象ってゆく。
頭と体。腕と足。それらを持った靄は、不思議と男に恐怖を与えなかった。
うずくまり膝を抱えた、まるで体育座りのような姿勢のそれに。なんとなく興味をもってきた男は、今度は言葉を教えてみたくなった。まずは挨拶からと。深夜二時に目覚め、朝までの四時間ほどをそれに費やした。

そして一カ月。靄のようだった物体が、枠で縁取られた様な人の姿になっていた。今では黒い影のようになったそれに、愛着のようなものまで覚えていた。言葉もだいぶ話せるようになり、男はそれに名まで付けていた。
美智子。それが影の名。生まれてくるはずだった、我が子の名前。その頃になると、さらにもう一体。靄の様なものが現れ始めた。
今度の靄は、最初の靄よりも少し大きめだった。貴子。そう名付け教育した。美智子と貴子。その二体と過ごす、たったの四時間が男の生活の中心になっていた。
そして…

ベットサイドの頭側。ランプシェードの下のラックの上に、一枚の写真が飾られている。写真立ての中には一組の男女。貴子と男が微笑んでいた。

身重だった貴子が死に、家族三人で今度こそ幸せにと思っていた男は。
次の日の深夜二時。ベットサイドで愕然と立ち尽くす。靄が。さらにもう一体、人型を作り出そうとしていたからだった。

それは。誰だ?…

『かくれんぼう』

鬼さんこちら手の鳴る方へ。
かくれんぼう。子供の頃、よく帰り道の神社でやった。鬼になりたくなくて、よくジャンケンの特訓もした。
「…九十九、百。もういいかい?」
百数えたら友達を捕まえてもいい遊び。けれど私の中で、止まっている時間。二十歳の成人式を迎えられなかった私。十九歳の夏。私は殺された。
「もういいかい?」
何度もそう聞くのに。誰も答えてくれない。
なんで?私が鬼だから?
「もういいかい?」
あの日。私が殺された日。暑い暑いあの日の夕方。友達の誘いで花火大会を観に隅田川まで行っていた。
「もういいかい?」
友達だと思っていた四人と。喧嘩別れをしてから、一人になった私。細くて暗い遊歩道を、私はとぼとぼと歩いていた。
「もういいかい?」
その時。後ろから足音がする。振り返ると、四人の友達。ごめんねを言いに?もしかして追い駆けてきてくれたの?
「もういいかい?」
ふと視線を落とすと。其々の手元には、鈍く光る石の塊。躊躇なくそれを振り下ろすみんな。それが当たり前かのように。
「もういいかい?」
友達の一人は車で来ていて。そのトランクルームに、私は押し込められた。だいぶ坂を登っていたから。おそらくそこは山の中なのだろう。
「もういいかい?」
名前も知らない見知らぬ土地の。雑木林のどこかに。私がいる。土に半分しか埋められなかったから。私は半分だけウジ虫に食われて。
「もういいかい?」
四人の友達は私を殺した事に、手を叩いて喜んでいた。あ、今、手を鳴らした…
「もういいかい?」
四人の名前を呼びながら…私は尋ねる。

「もういいかい?」と。

『縄張り』

カアーカアーカアー。
夕暮れ時。またカラス達が鳴き叫んでいる。縄張り争いでもしているのか、二羽のカラスが上空で激しくやりあっている。
馬鹿だなぁと思いながら、その様子を見詰める。だいたい縄張りってなんだ?鳥や動物、魚にだって縄張りがある。では、人間はどうなんだろう?
自分が出掛けられる範囲がテリトリーになるのだろうか?けれど人間は自分の力だけじゃなく、行こうと思えば何処まででも行ける。現に今。自分の行いはバレていない。
ルームシェアをしているあのヤローが、俺の気に入っていた女友達を、毎日のように部屋に呼ぶから悪いんだ。俺様の目の前でイチャつきやがって…
あー、でも清々した。今頃あのヤローは東京湾で魚の餌にでもなってるだろう。

それにしても、馬鹿カラス共がうるさいな。

〈注目〉ここからは何故この様な気味の悪い物語たちを書いたのかの言い訳です。スッキリしたい方は続きをお読み下さい。

『最後の審判』

【木槌を打つ音】

「静粛に。これよりa2proの罪について裁く。」

「待って下さい、自分は何も…」

「黙りなさい。何人もの殺人鬼を世に放ちながら何を言う。」

「殺人鬼?」

「そうだ。まずは『白い指』で描いた、フェチシズムに取り憑かれたシリアルキラーについてだ。」

「いえ、だからアレはフィクションで…」

「いや、あれほど生々しい描写はないだろう。」

「い、いえ…」

「さあ。このストーリーを書いた真意を述べよ。」

「…分かりました。
では、この主人公が何故罪を犯すようになったのかを説明します。まず男の生い立ちに原因がありまして。幼い頃両親が離婚し、母親が育てていたのですが、どうもこの母親がネグレクトで。水商売を生業としていて。水商売を否定するわけではないのですが、仕事柄、やはり色々な事が派手で…。いつも真っ赤なルージュを引きタバコを吸っているという。そんな姿が子供心に官能的で。結果的に男は、母親の愛情を追い求めて罪を犯してしまったのです。このように生まれつきのサイコパスでもないかぎり、罪人になる人間は、愛情を受けていない者がなりやすい。という事が言いたかったのです。

愛情は他者からもらうものばかりでなくて。最後には自分が、自分自身を愛してあげて。そして他者にも愛をもって接していれば、周りも自然と自分を愛してくれる。これが出来れば、誰か(自分自身も含めて)を傷つけたい、または、何かを壊したい。などと思う心は、自然と無くなると思ったのです。それでも、もしそういう思いが勝ちそうになったら。

一杯のコーヒーを飲みます。アイスでもホットでも。自分や、誰かに入れてもらったものでも。なんでもいいからブレイクするのです。
…などと聖人君子な事を言いたい訳ではなくて、心に余裕をもてば、自分の未来が見えるようになります。“人を呪わば穴二つ”。そう、何かを壊せば罰を受けます。何十年もの間、自分で自分の入る墓を掘るなんて。嫌ですよね…。」

「このストーリーで言いたい事はそれだけか?」

「はい。」

「では次のストーリー、『忍び寄る黒い影』を書いた真意を述べよ。」

「はい。では、語らせて頂きます。これはある男の悲劇の物語です。
不慮の事故によって亡くなった妻と娘を想うあまり、妄想に駆られていき、それが形となって現れてしまうのです。3つ目に出て来た影は、自分自身の影で。男は、その影に取って代わられる、という。と。もう一つ。実は3つ目の影は、実は妻の不倫相手だった。という二つのオチに辿り着くように練ってみました。最初のものがライトで。
実際に考えてみて、かなり怖いのが後のオチだと思います。」

「以上か?」

「はい。」

「では次。『かくれんぼう』について、真意を述べよ。」

「はい。これに関しては、答えから言わせて頂きます。 かくれんぼうのオニの女の子が、実は本物の鬼だった。というものです。」

「?。なんだそれは?」

「いえ、ですから本当の鬼だったんです。
 なにせ、石で攻撃してきた4人にヒントがありまして。」

「どういう事だ?」

「はい。1人の名前が桃田さん。2人目が犬埼さん。3人目が猿島さん。
 4人目が雉谷さん。で。もうお気付きですよね?」

「桃太郎か?」

「当たりです。」

「ダジャレか?」

「いえ、桃太郎たちによる鬼退治で、鬼目線で書いてみました。それにこのストーリーの中に2つの遊び事が潜んでいるんです。画期的でしょ?」

「自分で言うな!!」

「申し訳ありません。」

「だんだん、もうどうでもよくなってきたぞ。」

「そう言わずに裁いて下さい。」

「君、もしかして楽しんでないか?」

「いえ、気のせいです。」

「もう次が最後か。『縄張り』について真意を述べよ。」

「はい、喜んで。カラスを馬鹿にしていた男が、愚かにも気付かずに自分でも同じ事をしている。という。」

「?。以上か?」

「はい。」

「…これには何のヒネリもないのか?」

「はい。」

「なんなんだ君は…?」

「a2proです。」

「いや、名を問うたわけではなくて…もうよい。

結論として、これらのストーリーを何故書いたのだ?」

「はい。書きたかった理由は一つです。

明るいモノVS暗いモノ。みたいな。
明るいモノ=『オモいデのサクラ』を書いた後は、暗いモノ=『百鬼夜行』を書いてみたくなったという。」

「それだけか?」

「はい。それだけです。」

「…。今後もそのスタイルでいくつもりか?」

「さあ、どうでしょう。なにせa2proはあまのじゃくですから。」

「だから自分で言うな。」

「すみません。…それで自分の罪状は?」

「ふむ。今回だけ特別に無罪と言いたいところだが、おふざけが過ぎるので、保留という事にしておこう。」

「そんなぁ~。」

「何か不服でも?」

「い、いえ。寛大な処置を有難うございます。」

「では、失礼する。私も上の者に報告せねばいかんのでな。」

【木槌を打つ音】

そう言い残すと、一瞬あたりが光り輝き、目をつむってしまった自分。
そして前方から風を感じた。目をあけて足元を見る。そこには光る大きな純白の羽根が落ちていた。

「も、もしかして天使?って事は、上の者って…」呆然と佇むa2proだけがいた。

a2pro

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